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執筆者の写真morinone

【季節つぶやき事典】第23回《啓蟄》

新暦の3月5日から(3月19日まで)入る季節『啓蟄』についてのお話しをしましょう。


《二十四節気》のひとつ啓蟄(けいちつ)は春の節気、立春、雨水、啓蟄、春分、清明、穀雨の3番目の節気です。

冬ごもりをしていた生き物が土の中にも届いたあたたかい気配を感じて活動し始める時期です。

啓には「開く」「開放する」などの意味があり、蟄には「虫などが土の中に隠れて閉じこもる」という意味があります。

虫という漢字はもともと蝮をあらわす象形文字で、昔は昆虫に限らず、蛇や蜥蜴、蛙なども虫と呼ばれていました。確かに、漢字が虫偏になっていますね。


実際に虫が活動を始めるのは日平均気温が10℃を超えるようになってからで、鹿児島では2月下旬、東京や大阪で3月下旬、札幌は5月上旬頃に当たります。 虫が冬眠から目覚めるとそれを補食する小動物も冬眠から目覚め動き始めるのです。

しばらくすると、桃の花はほころび始めて、青虫が蝶になり舞い始めます。



春の役者たちが「やっと出番がきましたか!」と、はりきって登場するようなイメージですね。



冬の間、寒気や雪、害虫などから樹木を守っていた「菰(こも)巻き」を外すのも啓蟄の頃が多く、春の風物詩となっています。



※江戸時代から伝わる害虫駆除の方法ですが、実際には効果がなく、冬の風物詩として行っていることが多いようです。

また、3月に行われる大きな行事に雛祭りがありますが、雛人形を飾りっぱなしにしているとその家の娘の婚期が遅れる、とよく言いますよね。

雛人形を仕舞うのは、啓蟄までに行うとよいと言われていますので遅れないようにしましょう。




啓蟄の《七十二候》は以下です。



・初候:蟄虫啓戸(すごもりのむしとをひらく) 3月5日〜3月9日頃


・次候:桃始笑(ももはじめてさく) 3月10日〜3月14日頃


・末候:菜虫化蝶(なむしちょうとなる) 3月15日〜3月19日頃




ひとつずつ見ていきましょう。





蟄虫啓戸(すごもりのむしとをひらく)



虫に限らず、様々な生き物が目覚める頃です。


啓蟄を詳しく表したもので、冬ごもりをしていた虫たちが戸を開いて顔を出したような表現です。

春という字に2つ虫をつけると「蠢く (うごめく)」となり、まさにこの時期を表す言葉ですね。


雨が降るごとに気温が上がって日差しも少しずつ強まり、春が近づいていることを実感できるようになります。

春が近づいてくるこの時期は、大気が不安定で、強風や嵐、雷が発生しやすくなります。春に見られる雷は「春雷(しゅんらい)」と呼ばれ、寒冷前線が通過するときに生じます。


なかでも立春を過ぎてから初めて鳴る雷は「初雷(はつらい/はつかみなり)」、この頃の雷は「虫出しの雷」と呼ばれています。

先人たちは、冬眠中の虫や小動物が雷の音に驚いて土の中から出てくるととらえたのですね。


そんな虫たちを想像してみると、なんとも微笑ましくて「おはよう」と言いたくなります。

この時期は、朝は晴れていても午後から暴風雨になったり、局地的に雹(ひょう)が降ったりすることも。

天気予報を忘れずにチェックして備えましょう。





桃始笑(ももはじめてさく)



桃の蕾がほころび、花が咲き始める頃。


昔は花が咲くことを「笑う」「笑む」と表現していました。

花が咲くことを「花笑み」といい、花の様に笑うことも「花笑み」といいます。

花が笑っても人も笑う、そんな季節が春のイメージですね。


ちなみに、春の山の様子は「山笑う」と言われます。若葉や花の淡い色合いにかすむ山々もまた、微笑んでいるように見えたのでしょう。

草木や花、山の笑う様子を先人たちは眺めながら日々の暮らしに季節を感じていたのでしょう。五感が豊かになる日常ですね。


桃は、サクラが咲く前の3月下旬~4月頃に、白や赤、ピンクの花を咲かせます。冬から春にかけてウメが咲き、次にモモが咲いてサクラが咲きます。

桃の花は、梅と桜の間を縫うようにして咲き出すというわけですね


春に先がけて咲く梅、闌 (たけなわ) の春に開く桃、過ぎゆく春とともに散る桜。 どれも同じくバラ科に属する木の花ですが、それぞれに異なった味わいを持っています。


桃は日本では縄文時代以前から栽培されていましたが、江戸時代までは甘い品種がなかったため、薬用や観賞用の花木として楽しまれていました。

その後、江戸時代に甘みの強い種類が輸入されたことで品種改良が盛んに行われるようになり、花を楽しむ「花桃」と、食用の「実桃」に分けられるようになりました。


普通、「モモ」というと採果用の品種を指し、花や樹を観賞するための品種は「ハナモモ」と呼ばれ、一般に実は大きくならず、食べられません。



白梅が咲き、紅梅、桃の花が咲き、垣根にはどんな花が咲くだろう、次は何が顔を出すのかと愉しみにしながら眺めるのは春ならでは。

「庭先の春」なんて言葉もありますが、お家のお庭だけでなく、通りの花々の開花を間近に感じるというのもいい季節ですね。






《桃の節句》


桃の節句は3月3日で、まだ蕾の時期ですが、旧暦の3月3日は新暦の3月下旬から4月上旬にあたり、丁度桃の花が満開になる頃。



かつては「上巳(じょうし/じょうみ)の節句」と言って、

中国伝来の、春を祝い、無病息災を願う厄祓い行事を起原とします。


上巳の時期は季節の変わり目なので、災いをもたらす邪気が入りやすいと考えられ、水辺で穢れを祓う習慣があったそうです。それが日本に伝わると「上巳の祓い」として、紙や草で作った人形(ひとがた)に穢れを移して、川や海へ流すようになりました。


その後、「ひいな遊び」「ひな遊び」と呼ばれた紙の人形で遊ぶままごとが盛んになり、上巳節と結びつきました。そして男女一対の「ひな人形」に子どもの幸せを託し、厄を引き受けてもらって、健やかな成長を願うようになったということです。




5月5日の男の子の節供に対して、3月3日が女の子の節供となり、日本では神聖な木とされていた桃の木で邪気を祓う「桃の節句」や、女の子の健やかな成長を願い雛人形を飾る「ひな祭り」という日本固有の文化となって、現代に受け継がるようになそうです。


この様に紐解いてみると、もともとは女の子のお祭りではなかったということが見えてきて面白いですね。





菜虫化蝶(なむしちょうとなる)



青虫が羽化して紋白蝶になる頃。


菜虫とは大根やキャベツなどアブラナ科の植物を食べる虫ということで、紋白蝶の幼虫である青虫をさしています。

紋白蝶のほかにも、いろいろな種類の蝶が舞い始める季節です。

先人たちは蝶のことを「夢虫」や「夢見鳥」と呼んでいました。

荘子の説話「胡蝶の夢」に由来するそうですよ。

蝶になる夢を見たけれど、本当の私は蝶であり、今は人間になっている夢を見ているだけではないかというお話。

夢と現(うつつ)が混同して不思議な感覚を覚えるという幻想的なイメージに、華麗な変身をとげる蝶はナイスキャスティングですね。




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