今回は、葉月の「ならわし」について綴っていきたいと思います。
先人たちから受け継がれ続けてきた日本のならわしについて想いを巡らせて、これからも暮らしの中にゆったりと無理なく、丁寧に受け継いでいくことができたら嬉しいです。
【葉月(はづき)】
旧暦の8月は現在の9月~10月頃で、葉が落ちる月から「葉落ち月」から「葉月」となりました。
他に、稲穂が実る月「穂張り月」の「張り月」から「葉月」になったという説もあります。
「仲秋(ちゅうしゅう)」「月見月」「燕去月(つばめさりづき)」「雁来月(かりきづき)」なととも呼ばれます。
暦の上では、立秋から立冬の前日までが秋。
もう?! 秋?!と、思いますよね。
実際の気候は痛いくらいの陽射しとまとわりつくような暑さ、蝉たちの大合唱と、夏真っ盛りな時期です。
子供たちは夏休み真っただ中、大人もお盆休みなど、身体を休める期間はとても大切です。
同時に、家族や親戚と一緒に過ごす機会も増えますね。
様々な世代の人びとが集まるお祭りや盆踊り、田舎の暮らしに残る風物詩など、先人たちから時代を越えて受け継がれてきたものを体感できるいい機会なのかもしれません。
ちょっとアンテナを張って、五感で感じてみてはいかがですか?
■6月下旬~8月上旬
【暑気払い】
水無月のならわしの際にも少し取り上げましたが、暑気払いとは、その名の通り厳しい暑さが続く時期に、「暑さをうち払う」ために、体に溜まった熱気をとり除き、夏を乗り越えようとすることです。
暑気払いは、古くから行われてきました。
夏越の大祓、茅の輪くぐりなどの行事をはじめ、打ち水や風鈴といった夏の風物詩も暑気払いです。
暑気払いの時期は、いつからいつまでと決まっているわけではありません。
あえて暦でいうならば、夏至の6月21日頃~処暑の8月23日頃までが暑気払いを行う目安といえそうです。
【昔から受け継がれてきた暑気払い】
エアコンなどのなかった時代、先人たちの暮らしの工夫は理に適ったものばかり。
現代でも、取り入れると心地の良いものがたくさんありそうですね。
・打ち水…朝や夕方の涼しい時間帯に水をまき、気化熱で温度を下げます。
・すだれ…日差しを遮りますが風を通してくれて、目隠しにもなるので窓を開けたままでいられます。
・グリーンカーテン…つる性の植物をネット状に絡ませて育てて日除けにします。葉の蒸散作用で気温も下がります。
・風鈴…風が吹くと涼し気な音がして、耳から涼を感じます。
・うちわ・扇子…手であおいだ適度な風で涼をとります。描かれた絵柄に季節を感じるものもありますね。
・竹枕…通気性があり、表面もひんやりとしているので頭部が涼しくなりよく眠れるといわれています。
・ござ…い草には、熱を伝えにくいという性質があり、夏は冷たく、冬は暖かいという自然のエアコンのような働きをしてくれます。
■8月8日
【立秋(りっしゅう)~二十四節気】
(※「立秋」について詳しくはこちら)
■8月13日~8月16日
【お盆】
お盆は、正式には「盂蘭盆会(うらぼんえ)」または「精霊会(しょうりょうえ)」と呼びます。
8月13日にご先祖様の霊をお迎えに行き、お盆の間を家で一緒に過ごして供養し、16日には送り出します。
・七日盆(8月7日)…お墓や仏壇の掃除をします。
・盆市(8月12日)…地方によっては「草の市」「盆草市」「花市」など呼び名はさまざま。
お盆に必要なものが売られる露天が並び、お花やお供え物、ローソクなどを準備します。
・迎え盆(8月13日)…朝、盆棚(精霊棚・しょうりょうだな)や仏壇を整え、夕方から夜にお墓参りをして、玄関で迎え火を焚いてご先祖様を迎えます。
きゅうりと茄子に割りばしを4本ずつ挿した精霊馬(しょうりょううま)は、ご先祖様の霊が行き来する乗り物としてつくられます。
きゅうりは馬、茄子は牛に見立てていて、来る時は少しでも早く着くよう足の速い馬に乗って、帰る時はなるべくゆっくり帰ってほしいので、歩みの遅い牛にするのだそう。
送り盆に送り火と一緒に焚くか、お寺のお焚き上げをするか、塩をまいてお清めしてから廃棄しましょう。
・8月14~15日…ご先祖様の霊が家にとどまっている期間。お供え物をして供養します。
・送り盆(8月16日)…夕方にご先祖様の霊が無事に戻れるよう送り火を焚きます。
盆踊りや、精霊流し、灯篭流しなども、霊を送り出すための行事です。
お盆はご先祖様の霊が自宅へと帰ってくる期間とされていますが、その風習は、地方によって様々です。
現代に生きる私たちにとっては、家族や親戚と少しゆっくり時間を過ごす機会でもありますね。
でも、その心根にあるのは、故人を偲び、自分に繋がっているご先祖様に感謝するというものです。
あまり形式にとらわれず、そっと手を合わせるひとときが大切なのかもしれません。
【夏まつり】
夏祭りとは、もちろん、夏の間に行われる祭りのことです。
8月は全国各地で夏祭りが目白押しで、全国的に有名なお祭りもたくさんあります。
子供たちの夏休みやお盆休みの間に行われることが多いので、人出も多く、とても盛り上がり、思い出に残る体験となりますね。
この夏まつりは、豊作祈願と、病魔・厄災などの穢れを払い、先祖の霊を供養するために行われるお祭りなのです。
日本では、古くから四季ごとに祭りが行われており、季節によって祭りの意味や目的は異なります。
春は田植えの季節なので春祭りでは豊作を願い、秋はその収穫の季節なので秋祭りでは豊かな実りに感謝します。
夏祭りの多くは、豊作を妨げる害虫や台風を追い払うことが由来です。
また、夏は疫病が流行しやすい季節だったことから、疫病退散を目的とする夏祭りもあります。 そして、盆踊りは死者を供養する念仏踊りが起源です。
収穫を終えた農閑期の冬には、田畑の神をねぎらい、新しい年を迎えるための「新春祝い」に備えます。
けがれを落とすための裸祭りや火祭りが代表的です。
このように季節によって暮らしに寄り添った様々なお祭りがありますが、どの祭りにも先人たちの「生きるための願い」がこめられています。
時を越え暮らし方の変わった現代になった今も、その願いは変わることはなく、大切なものとして代々守り継がれています。
夏休みやお盆に、家族で過ごした楽しい思い出の中に、こういった、ならわしやいわれについて大人から子供たちへ、継がれてゆくものがあるといいですね。
■8月23日
【処暑(しょしょ)~二十四節気】
(※「処暑」について詳しくはこちら)
■8月下旬~9月下旬 (旧暦の8月1日)
【八朔(はっさく)】
八朔とは、「八月朔日(一日)」の略で、旧暦の8月1日のことをいいます。
この頃は、稲が開花、結実する時期であるにも関わらず、台風や害虫被害が懸念される時期でもあり、田の神様に豊作(田の実)を祈願しました。
そこから、八朔は「田の実の節句」ともいわれていて、農家では大切な稲の収穫を直前に迎え、一日に収穫したばかりの初穂をお世話になった方に贈り祝うという風習が古くからありました。
やがて鎌倉時代あたりからは、これが武家や公家の間でも「田の実」を「頼み」にかけ、日頃お世話になっている方に「八朔の祝い」として贈り物をして感謝を伝える日となり、今のお中元に繋がったともいわれています。
「八朔の祝い」は、収穫期前の最後の祭りで、疫病除けに効果があるとされたススキの穂を黒焼きにしたものをお粥に混ぜた「尾花粥」を食べる風習がありました。
やがて、江戸の頃にこの風習が民間に広がる際に、夏バテ解消になるといわれる黒胡麻を使った「黒胡麻粥」を食べる風習へと変わっていきました。
今でも、全国各地で五穀豊穣を祈願して八朔祭(はっさくさい)が行われています。
行われる内容や時期は地域ごとに異なり様々だそうです。
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【おわりに】
古くから伝承されてきた行事やならわし、それに伴うならわし料理には、日本の気候や風土に合わせ、私たちが健やかに過ごすための知恵が込められています。
季節に関係なく欲しい物が手に入りやすい現代は、いつでも簡単に美味しいものを食べることができます。
ただ、それが本当に健やかな毎日に繋がっているのか、今一度見直すことは必要かもしれません。
今こそ季節を感じ、自然の恵みに感謝して、先人が繋いできた「ならわし」や「ならわし料理」を、毎日の暮らしに寄り添ったカタチで無理なく取り入れることができたら、健やかに過ごせる秘訣を五感で見つけ出すことができるかもしれないですね。
そんな想いで、1年間12か月に渡り「ことごと綴り」の中で、「ならわし」について綴って参りました。
最後までご覧いただき、ありがとうございます!
いかがでしたでしょうか?
皆さんの中に何か気づきはありましたでしょうか?
季節が一巡しましたので、各月の「ならわし」についてお届けするのは今回が最後となります。
また、来月からは新しい形で、季節を感じながら、暮らしの中に活かせることのできるような「ことごと綴り」をお送りしていきたいと思っておりますので、引き続きご覧いただけたら嬉しいです。
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葉月のならわし
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