今回は、文月の「ならわし」について綴っていきたいと思います。
先人たちから受け継がれ続けてきた日本のならわしについて想いを巡らせて、これからも暮らしの中にゆったりと無理なく、丁寧に受け継いでいくことができたら嬉しいです。
【文月(ふみづき)】
七夕に短冊を飾ったり、詩歌を献じる風習にちなんで「文月」、文を広げてさらけ出すという意味で「文披月(ふみひらきづき)」が短くなったという説があります。
他にも、稲穂が膨らむ月であることから「含み月(ふくみづき)」「穂含月(ほふみづき)」が「ふみづき」となった、とするものもあるようです。
「七夕月(たなばたづき)」「七夜月(ななよづき)」「女郎花月(おみなえしづき)」などの呼び名もあります。
梅雨があけると、見上げる空は夏の青さと夏雲のもくもくとした白が鮮やかになります。
暦の上では夏のピークを迎え、夏本番です!
日中の気温がぐんぐんと上がり、外出するのをためらってしまうほどになってきます。
近年では、室内は空調で快適に過ごせますが、きんきんに冷えた室内と、とろけるような暑さの屋外との気温差や、一日中冷えた室内での座りっぱなしの業務などで、体調を崩すことも少なくないようです。
身体を温める飲み物や、ハンドバス(手首までを温める)などで、調子を整えてあげることも大切です。
とはいえ、夕方以降になると、夏特有の心地よさが漂います。
夕涼み、打ち水、風鈴、よしず、浴衣、草履、甚平、うちわ、扇子、蚊取り線香など日本古来の夏の風物詩や、夏まつりや花火などの、日本の夏ならではのイベントは、ずっと継承してゆきたい風習のひとつですね。
■7月2日(夏至から約11日目)
【半夏生(はんげしょう)】
半夏生は、江戸時代の農民たちが大切にしてきた雑節のひとつ。
次の季節を心地よく迎えるためのならわしで、夏至から数えて11日目頃からの5日間をいいます。
半夏(はんげ・別名:烏柄杓(からすびしゃく))という植物が生える時期ということからそう呼ばれるようになったといわれています。
梅雨明け間近の時期にあたり、昔からこの日までに田植えを済ませるのが、米農家の習慣だったそうです。
「半夏半作」とも呼ばれ、半夏生以降になると、秋の収穫が半減すると考えられていました。
半夏生は「物忌みの日」とも呼ばれていて、「天から毒が降る」などと言われ、「働くことを控える」「井戸に蓋をする」「この日に収穫した野菜は食べない」などの習慣が生まれたのだとか。
半夏生にまつわる風習は各地に残っているそうですが、どれも、繁忙期に一生懸命働いた農家の方々へ休息を促す意味や、神様への感謝の意が込められているようです。
■7月7日
【小暑(しょうしょ)~二十四節気】
(※「小暑」について詳しくはこちら)
■7月7日
【七夕】
季節ごとに行われる、無病息災、子孫繁栄などを願うための伝統行事である五節句のひとつです。
7月7日の夜に、織姫(おりひめ)と彦星(ひこぼし)が天の川を渡って1年に1回だけ出会えるという伝説にちなみ、日本各地でさまざまな行事やお祭りが行われています。
願いごとを書いた色とりどりの短冊や飾りを笹の葉につるし、星にお祈りをする習慣が今も残ります。
有名な「仙台七夕まつり」や、「ねぶた祭り」など、1か月遅い8月7日に祭りを開催する地域もあります。
これは、それぞれのお祭りの歴史にも関係がありますが、旧暦の7月7日は現在の8月20日頃にあたり、8月の七夕は旧暦を元にしているようです。
また、現在の暦の7月7日頃は梅雨の時期。
星のお祭りを開催する時期としては不向きでもあり、8月であれば梅雨も明け、真夏の時期となり、夏の大三角形であるベガ(織姫)とアルタイル(彦星)が良く見えることから、その影響もあるのだとか。
日本の七夕の起源は、農耕文化とともに始まったといわれています。
旧暦の7月7日頃は、風水害や病虫害の季節だったため、 先人たちは7日の早朝に禊(みそぎ)をして心身を清め、15日の祖霊の大祭の準備に入ったのだそうです。
そして、清らかな水辺に建てられた機屋(はたや)の 棚機(たなばた)と呼ばれる織り機で、巫女(みこ)である棚機女(たなばたつめ)たちが心をこめて織り上げた御衣(ぎょい)や海山の幸を、祖霊(神)に捧げました。
「たなばた」の語は、この「棚機女」や「棚機」から生じたもので、それが中国から伝わった「七夕(しちせき)の節句」と合わさったとされています。
この日本古来の祖霊信仰と、奈良時代に伝来した、中国伝来の技芸上達を願う「乞巧奠(きっこうでん)」という星祭の行事が融合したものが現在の七夕です。
【七夕飾り】
笹竹に、願いをしたためた短冊などをつるしたもの。
平安時代に貴族が「乞巧奠」を真似て、梶の葉に歌を書いたのが始まりとされています。
・吹き流し…織女(しょくじょ)の織り糸を表していて、裁縫や芸事が上達するよう祈る。
・折り鶴…長寿のシンボルであり、家族の健康を祈る。
・巾着…財布をかたどったもので、金運向上を意味する。
・屑かご…飾りづくりで出たごみを入れるかごをかたどっていて、ものを粗末にしないことを表している。
七夕の日に歌う、お馴染みの『たなばたさま』の歌詞に、「五色の短冊~」とありますが、この五色って何色かご存知ですか?
これは、中国の「五行思想」に由来していて、「青(緑)・紅・黄・白・黒(紫)」の5色です。
この世のものは全て5種類の元素からなると唱えられています。
青(緑)=木
紅=火
黄=土
白=金
黒(紫)=水
ちなみに、鯉のぼりの吹き流しもこの5色ですね。
【七夕送り】
七夕行事が終わった後、七夕飾りを川や海に流すことです。
「七夕流し」と呼ぶ地域もあります。
“川は天の川に続いている”という中国の言い伝えが起源となっているそうですが、地域によっては、“煙にのせて星に伝えて願いを叶える”ということで、火で燃やすところもあるようです。
【七夕伝説】
老若男女みなが知ってる有名なお話ですね。
七夕の日にしか会えない織姫と彦星が、この日に雨が降ると天の川の水かさが増し川を渡ることができないため、七夕の夜が晴天であることを願う風習は、とても微笑ましく、ずっと受け継がれていって欲しいものです。
もともとは、中国の「織女(しょくじょ)牽牛(けんぎゅう)の伝説」と、裁縫の上達を願う「乞巧奠(きこうでん)」の行事とが混ざりあって伝わったものといわれています。
日本へは遣唐使などによってもたらされ、更に、日本に従来からあった棚機女(たなばたつめ)の信仰とが混ざって現在のかたちができたとされています。
「織女(しょくじょ)牽牛(けんぎゅう)伝説」
天帝の娘で機織りの名手、織姫が彦星と結ばれ、機織りに精を出さなくなったため、天帝がそれをひどく怒り、天の川の両岸に2人を離し、1年に1度7月7日の夜だけ2人を会わせることにしたというお話。
■7月7日~8月7日頃
【暑中見舞い】
小暑から立秋の暑い時期に、相手の安否を伺い、自らの近況を報告するために出す挨拶状のことです。
この風習が始まったのは、江戸時代といわれ、お盆に里帰りをする時に、先祖の霊にお供えの品を持参していたことが始まりだそうです。
それが後に「夏の挨拶」として広く浸透し、お世話になった方へ贈答品を贈る形へ変化します。
(こちらはお中元というかたちでも受け継がれてゆきます。)
郵便制度が発達すると、更にこの習慣は簡素化され、挨拶状を送るものへとなっていきました。
近年では、もっと手軽にいつでも連絡がとれる様々なツールが発達したため、手紙やはがきを送るという風習すら薄れてきてしまっています。
「お世話になった方への挨拶」を、こういったならわしを機会に改めて見直してみるのもいいですね。
季節を感じるようなはがきや便箋に、手書きでしたためられたお便りは、今の時代だからこそ、より一層気持ちが伝わるものかもしれません。
暑中見舞いは、7月7日の小暑から、8月7日の立秋までに届くように投函しましょう。
もしも、小暑の頃までに梅雨明けしていない場合は、明けてからにしましょう。
立秋を過ぎてしまった場合は、暑中見舞いではなく、残暑見舞いとなります。
こちらは、8月中に届くように出すのがマナーです。
■7月20日頃~立秋の前日
【土用の丑の日】
「土用(どよう)」とは、次の季節に移り変わる時期(それぞれの季節の終わりの約18日間)のことをいい、春夏秋冬それぞれ4回あります。
立春、立夏、立秋、立冬が春化秋冬の季節の始まりですから、その約18日前からその前の季節の土用に入るということになります。
この中でも、夏から秋に変わる土用は、胃腸に体調があらわれやすく、胃腸の疲れ、食欲不振、消化力の低下、風邪や微熱、だるさが起きやすい、夏バテや熱中症など、年に4回ある中でも一番重要な土用といわれています。
現在では、この暑い夏のみ「土用の丑の日」と呼ばれ、鰻や梅干し、瓜、うどんなど「う」のつく食べ物を食べて精をつけ、無病息災を祈願したり、丑湯に入る習慣があります。
丑湯は、病気をしないおまじないとして土用の丑の日に風呂に入ること。
先人たちは、桃の葉やドクダミ、緑茶など様々な薬草を入れたようですが、お好きな入浴剤やアロマ精油、アロマソルトなど、リラックスできるものを選ぶといいですね。
丑の日に「う」のつく食材を食べるという風習は、「うしのひ」の名前にちなんでいることと、昔から栄養価の高い食材や料理が多いことが理由といわれています。
・牛…丑=牛なので、牛肉を食べるのが自然ですが、仏教の影響が強い日本では、肉食の文化は根付かなかったとされています。
胃腸が疲れて体力が落ちている時に食べる良い食材の1つですので、脂身の少ない赤身のものをさっぱりとした調理法でいただくといいでしょう。
・鰻…土用の日に食べる食材の代表格ですね。
五行説でいう「火」の影響が強い夏の天候に対抗するために「水」に属する鰻を摂取したと考えられます。
この時期の魚には、脂が多いものが少ないので、栄養がしっかり摂れる鰻は、貴重な栄養源だったのでしょう。
・瓜(うり)…体の余分な熱と湿気を取り除き、水分バランスの調整を行なう作用もあるといわれ、暑気あたりの予防に良いとされています。
体を冷やすので、胃腸が冷えていたり、消化力が落ちている場合は避けた方がいいですね。
・きゅうり
・苦瓜(にがうり、ゴーヤ)
・かんぴょう(夕顔)
・スイカ、メロン
※特に苦瓜とスイカは体を冷やす作用が強いので注意
・梅干し…食欲不振、喉の渇き、解毒作用、熱をとる効用があるとされています。
・うどん…温かいうどんは消化が早く、消化力が落ちても食べやすいとされています。
タンパク質や野菜なども一緒に食べるようにすれば夏バテ予防になります。
■7月23日
【大暑(たいしょ)~二十四節気】
(※「大暑」について詳しくはこちら)
文月のならわし
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