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モリ乃ネのはじまり

モリ乃ネが生まれるまでのSTORY

 ハマシマ ノブエ  インタビュー 

『モリ乃ネ』が生まれるまでのストーリーを代表のハマシマノブエさんにインタビュー。

活動を始めるに至った“想いの源泉”や、これまで歩んできた道のりを語ってもらいました。

両親の仕事柄、子どもの頃からいつも「食」が身近にあった

2017年3月28日の新月――。

『モリ乃ネ』は産声を上げた。

 

「先人たちが残した、すばらしい『食』の知恵や文化を、現代のくらしに合わせてアレンジしながら、デザインを通してすこやかな日々のくらしを伝えていきたい。そして、未来へと繋げていきたい」。

そんな想いから、モリ乃ネの活動をスタートさせたという代表の濱島ノブエさん。もともとの想いのルーツをたどってみると、「それは自分の子ども時代の記憶にあった」と語る。

「子どもの頃、両親が実家で惣菜店を営んでいました。厨房から聞こえてくる、小気味いい包丁の響き。大きな鍋から立ちのぼる湯気や、野菜や豆の煮物の甘くて優しい匂い……。せわしなく、でも生き生きと働く父母の“おいしいものを作る喜び”がいつもそこにあって、忙しい時は手伝わされたりもし、私も自然と食べること、作ることが大好きになっていきました」

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自宅びんコレクションの棚。中には自分がデザインしたびんも。

「食」だけではなく、食卓を彩る器や容器にも興味を持つようになった。

特にガラスが好きで、いろんな色や形のびんを集めるほどの「びんマニア」に。

「ガラスの美しい色や形、その輝きや透明感に心躍らせる時間を過ごす中で、今度は作る側に回ってみたい、デザインをしてみたいと思うようになりました。美術大学に進学してグラフィックデザインを専攻し、卒業後は様々な商品のパッケージを作るメーカーで3年間デザイナーを経験。その後、ガラス製品のメーカーに転職しました。やっぱり、あの頃のときめきは変わっていなかったんですね。子どもの頃から好きだったガラスの世界に足を踏み入れることとなりました」

メーカーでは、企画開発部で企業商品のガラスびんやラベルなどのデザインを担当。また、社内の企画開発プロジェクトでは主に食品や調味料用びんの企画・デザインに関わった。

さらに、休日は都内のガラス工房に通い吹きガラスを習ったりと、ガラスびんづくりに没頭。

ガラスびんづくりの仕事はとても楽しく、ますます夢中になった。

「ただ、デザイナーという仕事柄、プレゼンや納期前は多忙を極め、不規則な生活が続くことも。少しずつ体調に異変を感じるようになったんです」

「食」は知れば知るほど奥深い。日本古来の食文化に感動

まずはマクロビオティックをベースにしたホールフードスクールで、日本の伝統食の考え方や素材本来の活かし方などを学び始めた。勉強するにつれ、ますます学びたい気持ちが高まり、味噌や麹を仕込む講座に通って、発酵食の仕込み方を学んだり、豆問屋さんに豆料理を習いに行ったりも。

「食のことを知れば知るほど、日本には先人たちが残してくれたすばらしい食材や、理にかなった和食の調理法があることがわかりました。たとえば昔は、冬の間は食料がなく、夏の間には冷蔵庫がないので、『発酵させる』『乾燥させる』『塩漬けにする』『砂糖漬けにする』『燻製にする』などして、『多湿な気候の中でいかに腐らせずに食材を長持ちさせるか?』という知恵が次々に生まれていきました。さらに大豆は、発酵させると日本人の味覚ならではの「うまみ」が生まれます。大豆のたんぱく質を酵素が分解してアミノ酸(うまみ) に変えます。それが生かされて伝統調味料である味噌、醤油、醤などとなり、日本の食文化に繋がったのですね」

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先人たちが試行錯誤しながら生み出した、様々な食材の加工法や保存法は、現代まで脈々と受け継がれている。その果てしなく長い歴史と人々の苦労に想いをはせ、感謝の念がこころの底から湧いてきたと濱島さん。

麹づくりから発酵食の仕込みがはじまることも。

「これらのすばらしい食の知恵や文化を途絶えさせることなく、次の世代に受け継いでいきたい。そうした想いが、私の中でどんどん膨らんでいったんです」

昔ながらの伝統食を現代風にアレンジ。気軽に楽しんでほしい

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バスで食材の産地まで移動して、食材の収穫から調理、試食までを行ったツアーイベントの一場面

そんな矢先、周りの友人たちから、「味噌や醤油など発酵調味料の仕込み方を教えてほしい」という要望が度々くるように。すでに会社から独立してフリーでデザインの仕事をしていたため、休日に味噌や醤油・甘酒・塩麹の仕込みのワークショップや、旬の食材を使った料理教室などを開催するようになった。

「来てくださった皆さんが『手作りのお味噌っておいしい! 元気が出る!』『自分で仕込みができるなんて思わなかった!』と、生き生きした表情を浮かべる度に、私自身も嬉しくなって。中には『ワークショップに来るようになってから食生活や日々の過ごし方が変わり、それまですれ違い気味だった家族関係が修復しました』などという方もいて、食がもたらす奇跡にただただ驚くばかりでした」

こうした「食から生まれる幸せ」をもっともっと多くの人に広めていきたい。それが、モリ乃ネを立ち上げる出発点となった。

ただ、発酵食や保存食を一から仕込んでいくのは手間がかかる上に、地味で古い印象を持つ人も少なくない。実際、世の中には手軽でおいしい加工食材や調味料があふれていて、昔ながらの和食の調理法は敬遠されがちなのも事実……。どうしたら、そうしたマイナスのイメージを払拭できるのか? 忙しい現代人にも気軽に日々の食生活に取り入れてもらえるのか? 

色々と模索する中で、現代のくらし・居住空間にマッチした“新たなデザイン”や、便利な道具や手法を用いた“仕込みのアレンジ”を加えていこうと、たどり着いた。

機能性もデザイン性もある「びん」が、発酵食や保存食を輝かせる

そのひとつが、「びん」で発酵食や保存食を仕込むというスタイルだ。

「もともとガラスびんが好きで、デザインをしていた経験もあったことから、びんで味噌や醤油などの発酵調味料を仕込んだり、季節の食材を使った彩り豊かな保存食(たとえば青柚子やトマトの調味料など)を作ったら楽しいのでは?と思ったんです」

ガラスびんは、陶器やホーローと同様、非常に保存性が高く、発酵食を仕込むのに最適な容器。外から発酵・熟成していく様子が見えるのも楽しく、毎日でも見たくなるのがいいところだ。

「発酵食って、菌が生きているので、時々見て意識を注いであげると頑張って活動して元気に発酵してくれるんですよ」

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キッチンにある豆と雑穀の棚。眺めているだけでも楽しい。

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びんに仕込んだ保存食、発酵食のコーナー。通称「ノブラボ」。

しかも見た目もきれいで、キッチンやお部屋のディスプレイにもなったりと、びんには魅力がいっぱい。そこから生まれたワークショップが、びんで発酵食や保存食を仕込む「五感で楽しむ♪びん×Kitchen(旧タイトル)」だ。毎月、季節ごとの食材を使って行う仕込みのワークショップは、毎回多くのお客様から好評を得る、モリ乃ネの“看板メニュー”となった。

 

また、びんを使うだけでなく、発酵食や保存食づくりのところどころにも工夫を施すようにした。

「たとえば、味噌の材料をポリ袋の中で混ぜて、片付けの手間を省いたり。梅干しの天日干しを、びんに入れたまま陽に当てたりと、忙しい皆さんが気軽にチャレンジしやすい形を探り、アレンジを加えていきました」

今ある便利な道具を仕込みの過程に取り入れることも、モリ乃ネのワークのもうひとつの特長となった。

 

モリ乃ネでは「びん×Kitchen」をはじめ、季節ごとの食の養生と色をテーマにした料理のワークショップ「季節のめぐみごはん」や、日本ならではの伝統文化、手仕事を体験できるワークショップ、からだとこころが喜ぶ様々なコラボイベント・体験ツアーなどを行う。

「小さなお子さんから年配の方まで、女性も男性も幅広い層の方に、気軽に楽しんでいただいているのが何より嬉しい」

とハマシマさんは語る。

「将来的には、食にまつわる商品開発やカフェ、宿の展開など夢は大きく膨らむばかり。自然とともにあった、先人たちの食とくらしの知恵、文化、伝統を皆さんと一緒に味わい、からだ、こころが元気いっぱいになる活動をこれからも続けていきたいですね」 

2018年10月

取材・文/伯耆原良子

フリーライター・エッセイスト。早稲田大学第一文学部卒業後、人材ビジネスを経て、日経ホーム出版社(現・日経BP社)にて編集記者に。

2001年に独立後、雑誌や書籍、Web等で執筆多数。企業のトップから学者、職人、芸能人まで1500人以上に人生や仕事観をインタビュー。

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